
ミクロネシア連邦チューク州
ピス島の手食文化
ピス島の手食の概略
ミクロネシア連邦チューク州にあるチューク環礁上の低くて平坦なピス島。島の周囲は約2.5km、人口は約300人。海岸にはココヤシが生い茂り、みなさんが思い浮かべる、いわゆる「南の島」だ(写真1)。

島民は、スプーンやフォークなどを使うこともあるが、基本的には食事を手で食べる(写真2)。1986年に独立したミクロネシア連邦は、他のミクロネシアの国々と同様に、統治国がスペイン、ドイツ、日本、アメリカ合衆国と次々に変わっていった歴史をもつが、手食は統治以前から行われていたと考えるのが自然だろう。
左右どちらの手を用いてもよく、どのような体勢で-「常識」の範囲内ではあるが-食べてもかまわない。食事中や食後に指を舐めても問題はない。強いてあげるなら、親指・人差し指・中指の3本を使って食するのが美しいとされるが、そこまで重要視はされていない。こう言うと語弊があるかもしれないが、「快適」に食べられれば、なんでもよいのだ。子供たちは見よう見まねで食べ方を覚える。

地面に座り、地べたに置いた皿を囲み、そこから直接手で料理を取って口に運ぶスタイルが元来だろう。現在では陶器製やプラスチック製などの食器を利用することが多いものの、例えば無人島へピクニックに行くと、ココヤシの熟果から出芽したばかりの新葉を現場で調達し、皿に用いることがある(写真3・4、動画1)。バナナの葉も皿として代用できるし、ココヤシの葉で編んだバスケットに果物を盛りつけることもある。とはいえ、今では机の上に食器をおいて椅子に座って食事をすることもあれば、客人にフィンガーボールを出すこともある。ピス島にキリスト教(ローマ・カトリック教会)が伝来して2023年で100年になるが、キリスト教の影響によって食事様式が変化したというよりは、食生活を含むライフスタイル全般が近代化した結果だと思われる。


ピス島では共食が重要視されているように感じる。島内を散歩していると、どこかで必ず「シア(sia)・モンゴ(mongo)」と声をかけられる。「一緒に食べよう」という意味で、調理中または食事中に訪問者があれば、「シア・モンゴ」と声をかけるのがお決まりなのだ。
それと関連して、ピス島では自分たちが持っているものを気前よく提供して共有することが好ましいとも考えられている。嗜好品を例にすると、酒は回し飲みをするし-本当は島内での飲酒は禁止されているのだが-、タバコを燻らせていて隣に吸いたそうな人が来たら半分くらいで吸うのをやめてタバコを渡すし、ビンロウ-ビンロウの果実または胚乳にキンマの葉、石灰、煙草などを加えて噛む嗜好品-を持っていて誰かにわけて欲しいと言われたら差し出すことが望ましい。普段から気前よくしていれば、いざ自分のタバコやビンロウがなくなったとき、誰かに「ちょうだい」と言えば必ずもらえる。逆に、いつもケチなことをしていると、誰からもおこぼれにあずかれない、となるわけだ。
コメントを書く