
イフガオ族の
手食の基本知識
日本語訳:手食web編集部
フィリピンにおける手食の呼称
素手で食べる伝統的なフィリピンの食事法は、タガログ語で「カマヤン(Kamayan)」、ビサヤ語では「キナモット(Kinamot)」、トゥワリ語またはイフガオ語では「カンムット(Kammut)」と呼ばれています。このような共同での食事を「サルサロ(salu-salo)」とも呼び、バナナの葉の上に食べ物を並べ、食器を使わず手で食べることからこの名が付けられました。
手で食べる方法
1.ご飯を少し盛って脇に置きます。
利き手(スプーンを持つ手)でご飯をまとめ、小さな山を作ります。指先で行うのが最もやりやすいです。そのご飯の下に、おかずを少量置きます。
2.指先で握るようにしながらご飯を押しつけます。
指先で握るようにしてご飯の山を押さえつけます。これによって次の動作が楽になります。
3.持ち上げて口に運びます。
ご飯を押しつけたら、手を口元に持っていき、口を開けて食べ物を運び入れます。
左右の手の使い方の制限について
手で食べる際、左手か右手を使うかについての決まりは特にありません。使いやすい方を使います。両手で食べることは食事がしづらくなるため基本的には行われません。片手を手食に使い、もう一方の自由な手は、皿やスープ椀、飲み物などを扱うのに使います。
食事中の姿勢
特に決まった姿勢はなく、祝宴の場などではどこに座ってもかまいません。多くの高齢のイフガオ族の人々は姿勢が悪いこともあり、手で食べる際に「正しい姿勢」が必要とされることはありません。
“床に座る?テーブル?”
イフガオの祝宴ではテーブルや椅子があることもあり、その場合はテーブルで食べます。ベンチが用意されていることもあり、膝の上に皿を置いたり、ベンチをテーブル代わりにして床や石、小さな椅子に座ったりすることもあります。
“足を組む?片膝立ち?横座り?”
床に座るときは、足を組むのが楽です。特にイフガオの民族衣装を着ている女性は、衣装を乱さないよう椅子に座るか、無理のない姿勢をとる必要があります。
“食べ物は床?テーブル?”
食べ物は基本的にテーブルの上に置かれ、床に置くことはありません。ただし、人通りの少ない清潔なスペースであれば、皿を床に置くことも可能です。
“大皿から手で取る?食器を使う?”
ご飯や豚肉などの乾いた料理はバナナの葉にのせて出され、スープ類は大鍋に入れて提供されます。肉は手で直接取って食べられますが、ご飯やスープには食器が使われます。
また、バナナの幹(Todlak)を皿代わりに使うこともあります。

“指をなめてもいい?”
料理がおいしくても指をなめる必要はありませんが、なめても構いません。完全にきれいにする必要もありません。
フィンガーボウルの有無
イフガオ文化ではフィンガーボウルは一般的ではありませんが、手を洗うことは非常に重要です。美味しい食事を楽しんだ後に気分が悪くなるのは誰にとっても最悪のことです。少なくとも清潔な水を入れた水差しなどで手を洗えるようになっています。
どんな食べ物が出るか?
イフガオの祝宴では、豚料理や「ピニクピカン(Pinikpikan)」という鶏の煮込み料理がよく出され、特に人気です。

イフガオ族の手食の周辺情報
手で食べることの歴史的背景
「カンムットKammut」という手食の慣習は、植民地化以前の時代から行われていました。マゼラン探検隊のアントニオ・ピガフェッタやスペインの宣教師たちもこの習慣について記録を残しています。
当時は木製のスプーンやおたまが調理や配膳に使われていましたが、食事には用いられていませんでした。
スペイン統治やアメリカ統治下では、礼儀作法としてスプーンやフォークの使用が奨励され、この伝統は抑制されるようになりました。
宗教との関係
イフガオでは、宗教と手で食べることの明確な関係は記録されていません。これは単にフィリピン文化の一部とされています。
昔の人々は、食器が発明される前から手で食べていました。イエスの時代にも食器は存在しておらず、イスラム教徒たちは今でも基本的に手で食事をしています。
手で食べることに関する民話や神話
イフガオには、手で食べることに関する民話や神話はありません。それは単に代々受け継がれてきた伝統的な食べ方にすぎません。
手で食べることに対する美的意識
イフガオの人々は、手で食べる際に見た目が美しいかどうかをあまり気にしません。ホストや周囲の人に失礼でなければ、特に「こうすべき」というルールはありません。
清潔さへの意識
食前・食後に手を洗うのは重要です。特に高齢者は食後に「モマ(moma)」と呼ばれるビンロウジの実を噛む習慣があるため、その準備のためにも手を清潔に保つ必要があります。
バナナの葉や幹は、他のプラスチックや紙ゴミとは別にまとめられ、後で適切に処分されます。
子どもへの教育
時代とともに文化や習慣は変化します。古い習慣は消え、学校の話題としてしか残らないこともあります。
イフガオの親たちは、伝統文化を子どもたちに伝える責任があります。子どもたちに手でご飯を上手に食べる方法を教えるのもその一つです。手食文化の継承は、比較的簡単な方法で日常生活に取り入れることができます。
「サルサロsalu-salo」は、友人同士が集まる食事から誕生日や結婚式などの盛大な祝い事まで、さまざまな形で行われます。家族で食事を共にし、手で食べる体験を通して絆を深めることができます。
科学的な見解
手で食べることの効果
食器を使うよりも、手で食べることで食事のスピードが遅くなり、味や食感をより意識することができます。また、周囲の人々への意識も高まります。
テクノロジーの影響が大きい現代では、子どもたちがスマホを置き、会話を楽しみ、食事や人とのつながりを意識する良い機会になります。
健康や食欲との関係
手や胃、腸にいる常在菌は、病気から私たちを守ってくれます。手で食べることで、これらの菌が体内に入り、消化器官を守る働きをすると信じられています。もちろん、石鹸と水でしっかりと手を洗うことが前提です。
現代の傾向
多くのイフガオの人々にとって、手でおかずとご飯を混ぜて食べるスタイルは、代々受け継がれてきた伝統です。
「カンムットKammut」や「カマヤンKamayan」は、スプーンやフォークを使わない食べ方であり、人々とより深いつながりを築く手段にもなっています。高級レストランやおしゃれなカフェが増えている中でも、家庭や地域の行事ではこのスタイルが今も続いています。
コロナとタッチパネル機器の影響
コロナ禍では、大規模な祝宴ができなくなり、「カンムットKammut」の食事体験にも影響が出ました。しかし、手洗いをしっかり行い、共有の食事にはサービングスプーンを使うことで、手で食べる習慣は続けられます。
手で食べることが不衛生なのではなく、コロナ禍によって、食前の手洗いや消毒の大切さが再認識されました。
プロフィール

サントス・バユッカ
アーティスト。イフガオの豊かな伝統を守り続けることに情熱を注ぐ。
ラグド博物館(Lagud Museum: https://www.instagram.com/lagud_/)の創設者として、イフガオ独自の芸術性と伝統を称え、保護する場を築き上げました。祖先の伝統を守ることの大切さを若い世代に教え、その知識と情熱は、着実に次世代にも継承されています。
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